こんにちは。社団法人日本服装心理学協会の久野梨沙です。
さて、私は中央大学 文学部教育学部心理学コース(現 文学部心理学専攻)出身ですが、卒業後すぐに心理カウンセラー一本で活動していたわけではありません。3年次のゼミ選択の際に認知心理学を選び、企業への就職を目指しました。なぜかというと、そこまでの大学生活の中で「心理カウンセラーで食べていくのは茨の道である」ということを思い知ってしまったからです。心理カウンセラーとしての就職口は少なく、給料も高くはない。その状況は公認心理師という国家資格ができた現在も、残念ながら変わっていないように感じます。
元々ファッションが好きだったこともあり、卒業後は心理学の学びも活かせる場としてアパレルメーカーの企画職についたのですが、大学生活の中で心理カウンセリングの面白さややりがいにも魅了されていた私は、卒業後は副業としてカウンセリングを続ける道を選び、民間の団体に入って活動をはじめました。
そのときの私の師匠は、常々、「日本で心理カウンセリングが一般化しないのは、飲み屋のお姉さんが話を聞いてくれるせいだ」と冗談交じりに仰っていましたが、私はこれはあながち冗談ばかりでもないな、と思っています。もちろん飲み屋のお姉さん方が心理カウンセラー並みのカウンセリング技術を自然に備えている、ということではありません。同じ「きく」でも、「聞く」と「聴く」ぐらい違います。しかし、その違いは本当の心理カウンセリングを受けた事がある人にしかわからないわけです。
お金を払わずとも何かのサービスのついでに話を聞いてくれる人が多い日本では、わざわざ話を聞いてもらうためだけに(心理カウンセリングはそもそも話を「聴く」だけのものでもないのですが・・・)お金を払おうという発想になる人が少ないのです。だから、心理カウンセリングはメンタルの調子を崩した人だけが受けるものになってしまった。そうすると予防の観点でカウンセリングを受ける人はますます減って…の悪循環です。
そんなわけで副業として心理カウンセリングを続けていましたが、最終的に「ファッションとカウンセリングを一つのサービスにできるのでは?」と考えてはじめたのが、服装心理カウンセリングです。
心理カウンセリングだけでは受けるのにハードルを感じる人も、ファッションアドバイスであれば抵抗を示しません。服の相談をしているうちに、いつの間にか心理カウンセリングまで受けられる。そんなサービスができあがりました。元々、メンタルとファッションは密接に結びついています。鬱病の初期には「身だしなみにかまわなくなる」という症状が出るものですし、自分の身だしなみをどう考え扱うかには、その人が自分自身をどう思っているかが顕著に表れます。もちろん心理カウンセリングの必要性が全くなく、単にファッションアドバイスだけを受けて帰られるクライアントさんもいらっしゃいますが、心理カウンセリングの比重が高くなるクライアントさんもいます。そういう方は、次回からは心理カウンセリングだけを予約されるようになります。そう、これが「一回受けて良さがわかった状態」。間口を広げることで、必要な人に心理カウンセリングを届けることができるようになったのです。
私が大学を卒業してからもう20年以上が経ちましたが、相変わらず心理カウンセラーの待遇はあまり改善されていません。ただ、これからの時代は、今私がやっているように、別の業界の仕事に心理カウンセリングの価値を付加することは必須になっていくように感じています。そしてこの道が、これからの心理カウンセラーが進むべき新たな道ではないか?とも。
例えば、今私がやっている「パーソナルスタイリング」というジャンルも、似合う服を選ぶとか、その人が着たいと言っている服を探してきて提案するだけであれば、きっとこれから先はAIですべてできるようになってしまうでしょう。これはパーソナルスタイリング業界に限らず、あらゆる業界にAIがもたらしうる変化です。お客様が言ったとおりのことを代行したり、お客様に外から得られる情報だけで何かアドバイスしたりするのであれば、もうAIでよいのです。
お客様が欲しい車を提案する、欲しい家を設計する、欲しいアプリを作る、食べたい料理を作る……。これらはすべてお客様自身がAIと一緒にできてしまうようになる。
しかしそこに、人間が対話することでクライアントの奥深くにある願いや悩みを引き出す心理カウンセリング的価値を付け加えたら……。そこには全く違う価値を持った商品・サービスが生まれるはずです。
ですから、もしこの文章を読んでくださっている人の中で、心理カウンセリングの技術を持っているけれどなかなか仕事に思うように結びつけられない、という人がいたらぜひ、それをまた別のスキルや知識と掛け合わせることを考えてみてほしいのです。いろんな業界のいろんな商品やサービスに心理カウンセリング的付加価値が加わることで、話を聴いてもらうことの重要性が広く知られるようになる。そうすれば、心理カウンセリング自体ももっと一般化していくことでしょう。
実際に今、私の元にはいろんな業界から、「サービスや接客に心理学の知識を取り入れたい」というコンサルティング依頼が来ており、少しずつ対応させて頂いています。すべて公認心理師の資格を持つ私が担当していますので、それほどたくさんのご依頼を受けることができないのですが、ご関心ある方はぜひこちらからお問い合わせください。
また、カウンセリングにも興味があり、ファッションも好きという人はぜひ、服装心理カウンセラー・パーソナルスタイリストへのキャリアアップをお勧めします。心理学を知った上でファッションアドバイスができる人材がまだまだ不足しています。外見のコンプレックスに悩んでいる方、自分のキャラクターを活かしたファッションを知りたい方などなど、心理学に基づくファッションアドバイスを求めているお客様はたくさんいらっしゃるんです。
服装心理学に基づいたファッションアドバイスができる人材育成はこちらで行っています。仲間が増えることを心より願っています!